2020-11-01から1ヶ月間の記事一覧

中編小説『僕と』

月曜日 園庭の端の何も植わっていない花壇の前に、私は立っていた。乾いた土が、膝の高さのレンガブロックに囲われている。 私は、花壇を蹴った。びくともせず、つま先で受けた衝撃が、足指に心地よかった。靴の先を見つめ、中で指を丸めたり開いたりした。 …

短編小説『いつかの子』

その夫婦には、子どもがいなかった。妻は、子どもがほしかった。夫も、子どもがいてもいいと思っていた。 夫が妻と違うのは、一直線の欲求ではなく、いつの間にか身につけた標準的感覚から、子どもがいたらそれは楽しいだろうという前提をたてた上で、子ども…

詩『私がもらったのだから誰にも渡さない』

ときどき顔を合わせ しかしそのたびに与えられる 毎日顔を合わせ 毎日与えられる 会えなくなり 与えられたものを取り出してみる 私はそれを使い 生きる