2023-01-01から1年間の記事一覧

短編小説『港の二人』

悲しいことがあった日、男は港に足を運ぶ。必ず、歩いて行った。悲しみを正しく認識し、反省すべき点を反省し、明日に活かす術について考えるためには、徒歩の運動量と耳目の刺激がちょうどよかった。 突堤の先からは、対岸の商業施設の明かりがキラキラして…

詩『ウイルスなんてへっちゃらさ』

風邪をひき 俺は何日もベッドの中 メシが食えず 風呂にも入れず 自分が汚れに包まれていくのが分かる 身体が軽くなる一方で 外側の層が厚くなっていく やがて目と耳と口と鼻が塞がり 泥団子になってしまうところを想像する ひどい頭痛と寒気が引き 少しだけ…

詩『午後四時のバーにて』

開けっぱなしのドアをすり抜けて カウンター席につき 目の前に置かれたビールを見つめる 白い泡と 透き通る黄金 グラスを伝う水滴 隣の男はタバコを吸っている 反対側では若い女が泣いている そのあいだに俺がいて 今グラスを手に持ち傾ける テレビモニター…

詩『王様がお呼びになっている』

世間に認められなかった時 見る目がないと憎むのか 力不足と反省するのか そこにたいした違いはない 仮にちやほやされたとして では見る目があったのか 力が満ちたのか そんな都合の良い話はない いつだってこの世の成功はたまたま 目指し努力し近づくことは…

詩『パンチドランカー』

名文と呼ばれる文章を読んで形だけ真似する奴は 死ぬその直前になっても 骨粗鬆症のような文章しか書けない シャツやパンツ 靴下を透かして 空気を感じ 地面を踏みしめる 息遣いに耳を澄ませる リラックスして ベルトを引き裂く素早さで腰を回転させ 袖口の…

詩『ファミリーカー』

襟付きのシャツを着た男が 女と子どもが遊ぶ庭に出てきた 眠いはずなのに 遅れを取り戻すように 妻子がただそこにいるということに 驚いて見せる 喜んで見せる いい天気ね お日さま! そうだな、どこか出かけようか いつからお前はそんなに察しが良くなった…