2019-01-01から1年間の記事一覧

短編小説『走りながら下を見れば靴紐がほどける』

顎の先から落ちた汗の一滴が膝の間を通過して乾いたコンクリートの色を小さく丸く変色させ、次の一滴でその隣にもう一つ染みを描こうとしたら思いも寄らぬ方から水しぶきが飛んできて、斑になった。 顔をあげて視界に入ってきたのは逆光になった女のシルエッ…

詩『風邪は治りかけが一番危ない』

こじらせた風邪が治りかけベッドの中の居心地の良さを一週間ぶりに思い出した夜肺炎を起こして独りぼっちで死ぬのではなく再び社会に立ち向かいつつある自分を意識する 過激な敵対心ではなくまた頑張れるという「やる気」とも呼べる気持ち 願っているのに叶…

詩『独り言は囁くように自分の耳にだけ届くように』

コツコツコツコツ それは俺が歩く音か あるいは誰かが歩く音か 誰もが 誰も歩いたことのない道を行き なのに自分以外は安心しきっているように見える 俺もせめて安心したふりをして 堂々としていればいいのか いいのか? 脅えながら歩く道もまた俺の道 年齢…