2021-04-01から1ヶ月間の記事一覧

短編小説『きっとそれは最高に違いない』

アルコールだけでなく夜遅くまで家庭的な料理を出してくれるバーで出会った男とその日のうちに寝た。 私はそれまで、知り合ったその日に男と寝たことはもちろん、声をかけてきた男と甘い言葉を交わしたり、危うい雰囲気になったりといった経験がなかった。一…

短編小説『告白は秘密基地にて』

平日の昼過ぎに目を覚ましても慌てることなく、隣で寝息を立てる裸の女を眺めていられる。こんな生活ができるなんて、こうなるまで考えもしなかった。 たいていの女は、身体を横に向けて小さく丸まる。仰向けだったとしても、口を大きく開けて、目を半開きに…

短編小説『ただ静かに眠りたかっただけなのに』

幸子は、一週間前から毎日、夜中に床下から響いてくる騒音で目を覚ましていた。枕から顔を上げると、蛍光塗料で光る時計の針は、決まって四時を指していた。 布団をかぶり、しばらくすると眠っている。だが朝になって目を覚ますと、なんとなく眠り足りないよ…

短編小説『そう甘い人生がお前に用意されるわけがない』

女は、夜道を歩いていた。残業を一時間してから、混雑した電車に乗り、駅で降り、自宅に向かっていた。 女は、不機嫌であった。営業部の二人の男のせいで、自分が残業をするはめになったことに憤っていた。十七時ちょうど、女が自分の仕事をすべて終え、帰る…

短編小説『振り返ったときに後ろが見えているとは限らない』

一カ月前に女が出ていってからというもの、俺は腑抜けだった。酒を飲むのも面倒になり、とにかくずっと眠っていたかった。悪い夢を見るのは二回の就寝につき一回だったので、起きているよりはマシだった。 俺の身体は、十五時間以上は続けて眠れないようにで…