開けっぱなしのドアをすり抜けて
カウンター席につき
目の前に置かれたビールを見つめる
白い泡と
透き通る黄金
グラスを伝う水滴
隣の男はタバコを吸っている
反対側では若い女が泣いている
そのあいだに俺がいて
今グラスを手に持ち傾ける
テレビモニターには野球中継が映され
壁にかかった額の中で老人が笑っている
店内に流れる聞いたことのないBGMが
なぜか懐かしげに肌を撫でる
マスター、帰るぜ!
隣の男が叫び、金を投げる
カウンターに散らばった小銭を集めたマスターは
勘定をせずにレジに入れる
しかし俺には見えていた
百円玉が一枚足りていない
床に落ちたのだ
隣の若い女はまだ泣いている
時々鼻を鳴らしては
こぼれそうになる涙を指ですくう
何か悲しいことがあったのか
なぜここで泣くのか
そんなことはどうでもよかった
慰めてやれるのは
俺だけだった