(1)『街』

お前が働く街で

俺たちは偶然再会した

 

 

唖然とする俺を見て

お前はただ笑っていた

それを見て俺も

ぎこちなくではあったが

笑うことができた

 

 

よく知らぬ都市の繁華街

お前と肩を並べながら

少し洒落ており

かつ支払いに困らない店を探した

 

 

ちょうどいい店を見つけたと思ったが

飲みたい気分だからと

お前は隣の安い居酒屋を指差した

俺は胸に何か刺さるのを無視して

暖簾をくぐった

二人だと店員に告げた

 

 

乾杯すると

互いの近況を話した

俺のつまらない生活のことを

お前は楽しそうにきいていた

それだけで

自分の毎日が少しマシになったような気がした

あんたは変人だから

という言葉さえ

褒められているのだと思えた

 

 

酒が進み

昔話に花が咲いた

俺は

お前と生きた世界に想いを巡らせた

うまくやれたんじゃないか

こいつを幸せにできたんじゃないか

こいつもその方が幸せだったんじゃないか

だが昔話はいつか尽きる

毎日同じ話を繰り返し

それだけで暮らしていくわけにはいかないのだ

今から新しく築き上げていくこと

その自信が俺にはない

 

 

あんたには幸せになってほしい

とお前は言った

幸せだぜ

と俺は答えた

冗談と受け取っているお前から目を逸らし

少なくとも今は

と考える

 

 

トイレから戻ってきたお前は

メイクがぐちゃぐちゃだと嘆いた

でもあんただからいいわとふざけた

駄目だろ

と俺は言った

いいよ、と言えばよかった

 

 

酔いが回り

お前は柄にもなく愚痴り始めた

俺はうんうんと頷いてきいていた

一通り喋ってから長く黙り

一緒にならなくてよかったでしょう

とお前は言った

そうだな、どうせ駄目になってただろうし

と俺は答えた

俺たちは二人でクスクスと笑った

 

 

店を出て

半分出すとしつこく食い下がるお前

女に貢ぐのが趣味なんだと却下すると

お前は俺の肩を強く叩き

財布をしまった

 

 

旦那と別れたら俺が一緒になってやるよ

その言葉にお前は

酔っぱらっているくせに

うまく微笑んで改札に消えていった