(2)『自室』

夜遅くアパートに戻り

ベッドに倒れ込む

誰か着替えさせてくれまいか

世界一着心地のいいパジャマに

それだけで俺は世の中を憎むことをやめられるだろう

 

 

目が覚めたとき

俺はTシャツにジーンズ姿

いつからかベッドの汚れは気にならなくなった

シャワーを浴び

やっと着替える

どうせ入らないといけないんだから先に入りなさい

至極まっとうな母親の言葉を思い出す

 

 

ジーンズから落ちた携帯が

ランプを点滅させている

そのランプの色でお前からの着信だと気づき

しばらく床に落ちたままにさせておく

点滅のたび

間違いないことを確信し鼓動と共鳴する

 

 

お前は明るかった

あんた元気ないね

と何度も言った

別に元気とか元気じゃないとかいう歳でもないだろう

その言葉にお前は

やっぱり元気ないじゃんと言った

 

 

何かあったのかとはきかなかった

その何かが俺を不快にさせると思った

話したければ自分から話すだろうという殊勝な態度で

暇でさあ

皆忙しそうだし

あんたなら暇だろうと思って

という軽口に無難にやり返した

俺が何を言っても

沈黙してもお前は楽しそうだった

 

 

携帯の向こう側で物音がして

お前は短く叫んだ

そして通話が途切れた

 

 

俺がまず思ったのは

お前の叫び声を初めてきいたということ

慌てることもあるんだなということ

それから

何が起きたのかという疑問

 

 

リダイヤルのボタンに指をかけ

俺が出した答えは様子見だった

今さらお前の生活を脅かしたくはない

多くのものを背負っているのだ

お前も

他の奴らも

 

 

俺はいつからこんなに軟弱になったのか

だんだんと弱っていったのか

あるとき急に弱ったのか

 

 

携帯を近くに置き

ベッドで横になる

こういうときは眠るに限る

俺が眠っているあいだにも時間は過ぎてくれるのだ

なんと便利な

俺のような人間が安心して生きながらえるための手段

そして俺はどこでも

いつなんどきでも眠ることができる

環境に順応しているのだ

俺も

お前も

 

 

おやすみ、と言ってみて

俺は笑った