(3)『交差点』

やけにきれいに舗装された道路を走り

ワンボックスカーは高速に乗った

車内には作業着姿の六人の男

 

 

疲労

すでに明日の疲労を見据えた苛立ちで満ちていた

それではやりきれないと

誤魔化すように

あちこちでライターを擦る音がきこえる

家に帰ればタバコがビールになる

 

 

こんなことをいつまで続けるのか

いやオフィスで働く男たちも

案外俺たちと変わらないのかもしれない

うまくいったと思う一日だって

かつて思い描いた

画用紙や原稿用紙の上に描いた夢とは違っている

 

 

俺がもっとも愛した女

それもそんな気がするだけで

実は愛してなどいないのかもしれない

何度も思い浮かべた裸体や

心が震えるほどの怒りや悲しみの瞬間

それどころか

お前の好物だって俺はよく知らない

好きな映画も小説も

そんなものがあるとして

 

 

あらゆる場面での

知ってどうなるのかという

不貞腐れた態度が

俺をこのようにしてしまった

 

 

もう

俺は何も獲得しないのだろうか

手に入れて

喜ぶということはあるのだろうか

たまたま

何かがうまくいって手に入ったときに

もらえるならもらっておくよ

という不遜さを示すばかりなのか

 

 

紫煙の中

運転手が声を出し

労働者を降ろす場所を確認する

気のない返事が続き

最後に俺も

一日きりの同僚として

できるだけ気のないような返事をした

 

 

静かになり

車の振動だけが

俺の腹の底に響いていた

 

 

俺は

男の一人が

あいつの住む街で降りることに気づいていた

今朝だって

男はその街から乗ってきたのだ

そして俺は工場で雑誌を運びながら

昼飯を食いながら

喧嘩を眺めながら

ボサッとしながら

迷っていたのだ

 

 

運命

と頭に思い浮かべると

やはり大げさだった

しかし現実には

人が想像する以上に

人生を決定づけている

バスに乗り遅れたから死なずに済んだ

ということが実際に起こっているのだ

 

 

男がその街で降りるとき

用事ができたから

と運転手に告げて一緒に降ろしてもらう

女か

という問いかけを

俺は咄嗟に否定する

 

 

一人で交差点を歩き

高いビルを見あげた

その上の狭い空に

人生の意味が過ぎった気がした

 

 

携帯を取り出し

発信ボタンを押すとき

またもや俺は

出なければ仕方ないかと考えた

そういうのは

もうやめたのだ

少なくとも今日だけは

 

 

出ろ、出ろ、出てくれと願い

携帯を握りしめ

コール音に耳を澄ませていると

はい

と俺の好きな声がした

 

 

近くに来たからさ

ホテル行こうぜ

俺はそう言って笑って

お前が笑ってくれるのを待った