詩『持たざる者』

人類はいずれ絶滅するということが

ある者の心を脅かすことはない

 

ある者に脅しをかけるのは

金の不足や死や病気や孤独

 

しかしその個人の不安は

まるで人類の危機のように語られる

 

一人の不幸を

人類の不幸と考える

 

不安が不安を呼び

世界経済の心配をしたりする

自然を守らなくてはなどと言う

核ミサイルや抑止力の話をする

 

こわいと口にしながらも

本当に恐れてはいない

そうやって独りごちているうちに

人生は何の問題もなく終わるだろうと考えている

 

近所にあるスーパーがつぶれないこと

たまに癒されるためのちょっとした緑が残ること

向こうから歩いてくる男がいきなり襲ってきたりしないこと

そればかりを日々願っているのに

人はまた今日もニュースを漁り

人類が絶滅しない方法を探すフリをしている