詩『分からない言葉はすぐに辞書で調べてできるだけ早く忘れること』

かび臭い古本屋にいるときはまだマシだった
中腰ででっかいケツを突き出して本棚を物色する年増女がいたくらいだった
油断していた私でもそのケツを避けることができたし
避けずにぶつかってやろうとか
怒鳴りつけてやろうとか
掴んで捻ってやろうとは思わなかった


私はなかなか良い本を見つけられなかった
良い本とはそもそも何なのかと考え始めていた
これまで私が手に取ってきた中に
良い本などあっただろうか
悪い本は…
たくさんあった
悪いものはどんなときも溢れ返っているものだ


いずれにせよ
私は何か本を手に取り
レジで金を払い
店を出ねばならなかった
そしてその通りにした
解決にはなりそうになかったが
とにかく行動をAからBへと移したかった
本を探す、という行動から、本を買って店を出るという行動へ


商店街から逃れ
道を歩き
ベンチに腰を下ろした
そこは小さな広場のようになっていた
ベンチは全部で4つあり
私以外に2人がベンチに腰かけていた
私は自分がずいぶんと辺りを気にしていることに気づいた
だが誰も
私など気にも留めていないようだった


私は強い不安に押しつぶされそうになりながら本を開いた
目次のページを見て
短編集であることを思い出した
短い物語がいくつもあることが私を少し安心させ
だが逆に欲も出てきて
できるだけくだらない本であってほしい、と願った
文法が滅茶苦茶で
人称も滅茶苦茶で
読むに値しない本であってくれと願った
読むに値しない本を読みたいと思った
だが
実際は願っていたほど滅茶苦茶ではなく
読み始めるとすぐに私は混乱した
1ページも読まないうちに男が3人登場した
狭い部屋に男が3人
テーブルを囲んでいた
3人にとって
読者にとって
そしておそらく作者にとって
どうでもいいことについて話していた


中学校の同級生
煙草
ワイングラス
いとこ
デッキシューズ
工場でのライン作業
そんな言葉が
私の頭から髪の毛1本ずつを抜くみたいに脳みそをチクチクさせた
私はさっさとこの3人が乱交を始めればいいと思った
3人がそれぞれ右隣の男の頬にパンチを入れればいいと思った


ハッとして私は顔をあげ
辺りを見回した
ベンチは4つあり
私以外の2人もまだそこに腰をおろしていた
1人は煙草を吸いながら正面を
1人は手元のスマートフォンに視線を向けていた
だが私はつい先ほどの自分が見るに堪えない顔をしていて
彼らがそれを見たのではないかと考えた
私のおかしな様子を見ても彼らは表情一つ変えず
また違う方に目をやって今に至るのではないかと考えた
没頭したい、と私は思い
短編集に視線を落とすと
もう自分がどこまで読み進めていたのか分からなくなっていた
私は苛立っていた
タイトルまで戻って拾い読みをしたが
初見のときよりもさらに内容が頭に入らず
はっきりと焦燥していた
もう一度タイトルに戻って
数行をじっくりと読み
もう一度タイトルに戻って
今度は文字をただの記号が絵だと信じ込んで鑑賞しようとした
結局
読むことを諦め
眺めることを諦め
耳の上に汗が滲むのを感じながら
本を閉じた


顔をあげると
ベンチは4つあり
誰も座っていなかった
私は自分が狂い始めているのかもしれないと思った
誰にも気づかれることなく
ひっそりと
後戻りできないほどに