詩『忘れるまでは覚えておく』

もう忘れたものとして
私は仕事に行かなければならない
手料理など食べたことのない顔をして
代わり映えしない食べ物で腹を満たさなければならない
絵を描けなくなった画家のように
休みの日には新しい美しさを求め歩く

 

苦し紛れに指先で触れた美しさに
似たところを探す
でも違うんだと私の心が訴える
思い出を正確に手繰り寄せては
こんなものではなかったと私の身体を呼ぶ

 

少しの散歩も
思い切った遠出も
未踏の地への旅も
心がついていくる
携帯や財布のように
忘れたふりをして置いて行けたなら
私は帰ってこない

 

なかったこととして生きていくのは
あまりにもむごい
そう思えるのは
まだ心が残っている証拠だと
私は自分に言いきかせる

 

捨てられない心を
敢えて捨てないと思うことが
私を支え
ときにくだらないことで
笑ったりしている