詩『一体どうやったら逃れうる?』

俺が生まれて初めてまともな仕事に就いたのは
家賃や光熱費
明日というか今日の食事と酒代
年金と健康保険料
住民税


そんなものたちと
それらを支払えなかったときの督促状
催促の電話から逃れたかったからだ


本当にそれだけだ
俺が求めていたのは
平穏だった


誰かの叫び声や
イラついた役所の人間や集金人
そして「親展」の判子が押された紙切れなんかに
気分を害されるのはごめんだった
たとえそいつらの方でも
俺の相手などごめんだと思っていて
また社会的に正しいとしても


だから俺は
全部ひっくるめて片づけるつもりで
一大決心をしたつもりで
職安に向かい
求人用紙をめくり
印をつけ
電話をかけ
面接を経て
契約書にサインし
仕事に就いた


まあ一応
真面目に働いた
無遅刻無欠席
言われたことはきちんとこなした
煩わしいことは嫌いだが
他人に煩わしいと思われるのも何故か嫌いだった
俺は実は繊細なのかもしれない


あるとき俺は
五連休をもらった
職場が一つの山を乗り越えたあとだった
俺にはそれまで連休などというものを与えられていなかったが
よく貢献してくれたから
と上司は言い
寸志までくれた
俺は業務を終わらせると
職場を出た


馴染みの店の前を通り過ぎ
少し高い食い物と酒を出す店に寄った
文句なしに旨いメシと
文句なしに旨い酒だった
隣に座った若い男と話した
まだ大学を出たばかりの
大企業に勤める若い男だった
感じが良く
話も上手かった
警察沙汰にならない程度の悪さを経験した人間特有の
不快でない人懐っこさと自尊心を持っていた


二人の酒が進み
ふと静寂が訪れたときも気まずくはなく
この男とどこかで飲み明かすのもいいかもしれない
と俺が考えていると
奴は帰ると言い出した
「明日も仕事なんだよ」
その苦い笑みの裏側に
忙しい仕事や
またその仕事をこなす自分への誇りを垣間見た


俺は一人店に残り
三杯ほどひっかけて部屋に戻った


翌日からの五連休を
朝から晩まで部屋の中で過ごし
そして六日目
俺は職場に行かなかった