詩『忘れられるものなら忘れてみろ』

嫌なことを忘れるために酒に頼り
いっとき楽しい気分になって
ああいい気分だと千鳥足で家に帰ると
自分の家に帰るつもりで家に帰ったのに
これが俺の家なのかと初めて知った気持ちになる


俺は灯りをつけ
椅子に腰を下ろし
部屋を見回し
鼻をスンスン鳴らす
これが俺の家
と今度は自分に言いきかせるために声に出す


長い時間が過ぎ
俺の身体と心が俺の家に馴染んだ頃ようやく
身体を動かしても
頭を働かせてもいい気がしてくる


そのまま寝てしまってもいいのに
硬い椅子よりも
硬いベッドで寝た方がマシってことを俺は知っているから
知ってしまっているから
といってもほとんど無意識に
ベッドに移動しようと思い
椅子から立ちあがりベッドに向かいかけ
途中で三歩引き返して部屋の灯りを消す
そしてまたベッドに向かう
俺はこの無駄な三歩を何百回繰り返してきたのだろう?


無事ベッドに辿りつき
疲弊しているわけでもないのに倒れこんでみて
思わぬ衝撃に
うっ
と声をあげる


すぐに息苦しくなり顔だけ横に向け
しばらくして首が痛くなってきたので顔以外も横に向け
そして少しずつ少しずつ
身体を小さく丸めていき
まるで子供のように小さくなって
だが自分の酒臭さによって
俺が子供であるわけがないと気づかされ
できる限りの自虐的な表情を作って微笑み
眠る