詩『机上の餡パン』

言葉にした途端
もう違ってしまっている


愛のうたも怒りのうたも
夢のうたも哀しみのうたも


言葉にした途端
というか目や耳で感じ取って吐きだそうとしたときには
違うものになってしまっている


どんなに言葉を重ねても
華麗な比喩を使っても
目の前のそれをそれたらしめることはできず


ああそれ分かる
知ってる知ってる


と分かったように知ったように言うけれど
人からきいたことはきいたことでしかなく


例えば人工的に同じ状況を作っても
時間というものが絶対的な力となって
現象はその瞬間にしかない


買ってきた餡パンをテーブルに置き
じっと見つめながら
自分が口を開けて食べるところを想像してみると
唯一無二の餡パンに見えてきて
これを食べたらこれはなくなるんだと思えてきて
実際そうだから私は怖くて手を伸ばせないでいる