詩『正直者である前にあまのじゃくであれ』

仕事を失い
金が尽きたとき
なんのことはない
たまたま俺が「この仕事」に向いていなかっただけだと言いきかせ
でも食わなきゃ死んじまうから
せめて少しでも自分に合った仕事をと
探し
あれでもないこれでもない
消去法の繰り返しの末にやっと見つけた仕事は定員オーバー
もしくは向こうが俺を求めていないとくる


なんのことはない
たまたま俺が「この時代」に向いていなかっただけだと言いきかせ
肉体労働でもしてみるか
と今まで何度もそうしてきたように
顔のいらない
首から下を必要とする仕事のページをめくる


探すというかこういう仕事は
どんなときでも
どんな街にでも溢れ返っていて
ここで働きたいんです
いいですよ
ってな面接試験を経て俺はいっぱしの労働者となる


そういう仕事に就いたとき
俺はどうしても「仕事に就いた」とは思えない
暗くてでっかい穴に放りこまれた!と思う
自分から手を挙げたくせに


さてそんな職場に潜りこんで周りを見回していつも思うのは
こいつら一体どうやってこの歳まで生きてきたんだろう
という不思議
軽蔑してるわけでも
皮肉ってるわけでもない
むしろ敬意を払って俺は思う
こいつら一体、この歳になるまでどうやって生きてきたんだろう?


四十、五十の男どもにはもちろん
二十代の俺より年下の奴らにさえ俺は尊敬の意を表する
こんな若造だっていずれ五十になる
三十年後に五十になる若造は
やはり俺にとって不思議以外の何者でもない


そいつら不思議ちゃんどもの間で共通しているのは
不思議であるという点以外の
全ての点において違ってること
俺の行く先々は特にひどい
極端である
そんな奴らと俺が仲良くやっていけるわけがない


若かろうが年老いていようが
そいつらみんな
何だかんだうまくやって滅多なことでは死なずに生きていく
何だか俺には無理そうだ
果たして奴らも
俺を見て同じことを感じているのだろうか?
俺にはどうもそう思えない


自ら命を絶つとか
そんなことはしないさ
俺はいつだって
明日になれば全て
本当に全てがうまくいくに違いないって心の奥で信じてんだ
そのための努力を何ひとつせず
虎視眈々と


俺はまた毎日部屋で独り
まあ、あれだ
なんのことはない
たまたま俺が向いてなかっただけだ
「この世」に


部屋にずっといると気が滅入る
俺だって気が滅入ることくらいある
街をうろうろしながら考える
俺のせいじゃないよな?
俺のせいじゃないよな?
少なくとも俺だけのせいじゃないよな?


どれだけ金を稼げるかなんて何の意味もない
稼げる奴と稼げない奴がいて
稼げない人間のうちの一人が俺だということ
そしてこれからも多分ずっとそうだということ
俺と
俺以外の全ての人間がこの世にいるということ


腹が減った俺は自分の部屋に戻り
威風堂々とベッドに腰かけ
腕を組み
誰かが食い物を持ってくるのをじっと待つ