詩『並んだからって必ず順番が回ってくるとは思うなよ』

カゴを持って長い列に並んで
人の列が進んで前の客で手間取って
ついに自分の順番が回ってきて
パンやら牛乳やら肉やらをもらう代わりに金を渡す度に俺は
何が起きているのか分からなくなる
こんなものを手に入れて自分が何をしようとしているのか分からなくなる


袋はご利用ですか
はい


俺がカゴに入ったものを持ってレジを去ると
レジ係の意識から俺は消される
一日に相手にする何百人の客のうちの一人でもなく
全くのゼロになる
いなかったことになる


それでも俺は引き続き与えられた仕事をこなしてゆく
淀みない動作でカゴの中のものをビニール袋に移し
空になったカゴを指定の場所に戻し
スーパーマーケットを出る


馬鹿みたいにビニール袋をぶら下げて
ときどき反対側の手に持ち替えたりしながら
交通ルールを適度に守りながら
ボロアパートへと向かう
向かっているつもりでいる


繰り返しによって擦りこまれただけの記憶に引きずられて歩き
どこで右に曲がるとか左に曲がるとか考えずに歩き
気づくと自分の部屋にいる
いつの間にか
靴さえ脱いでいる
稀に鍵さえかけている


袋ごとテーブルの上に置き
ソファに腰かけてそれを眺め
これは一体何なのだろう
何が入っているんだろう
俺は何を手に入れたというのだろう
と不思議に思い
それから怖くなって全部ゴミ箱に捨てる