詩『犯人は出演者のうちの誰か』

朝もやの中
列に並び
後ろから割り込まれないように注意し
新聞に目を落とし
携帯画面に目を落とし
耳栓代わりのイヤホンはすでに装着済み
列車がホームに入ってくると
微妙にズレたドアの位置に合わせて一歩移動


降りる客優先
俺はドアの右側から
私はドアの左側から乗り込むという意思表示


モラル
マナー
というよりも
それらがあるために生まれる
守らなかったときのゴタゴタに巻き込まれたくないから
俺たちは客が降りてから乗り込む


このとき
空いた席を探す作業はすでに終えている
列車が滑り込んできたとき
あるいは降車客が途切れるのを待っているとき
それは実行されているのだ


朝の電車で座れるか否か
同じ駅から乗るのであれば
ほぼ100パーセント運に左右されていると言っても過言ではない
実力で奪い取ろうとするならば
かなりの図々しさが必要で
ときにゴタゴタに巻き込まれることを覚悟しなくてはならない


朝の電車内は静かで
まるで強制収容される大型車両の中のよう
俺にはこいつらの手首に手錠が見える


どんな朝にも
電車に乗らない
という選択肢があるにもかかわらず
そして本当は乗りたくないにもかかわらず
誰もが式典の手順みたいに自ら手首を差し出し
ガチャリと音をさせて朝もやに紛れていく


そんなことを考える朝
俺は仕事を休んでみる
すでに電車に乗ってしまっているときは
途中下車して上司に電話し
引き返す


翌日
職場で嫌味を言われ
腹を立てながらも黙って耐え
仕事を始め
しばらく休めないな
と思って下を向くと
銀色の輪っかが二つある