詩『言いたいことがあるなら封書で頼む』

人からあーだこーだ言われて駄目かもしれないと思い 俺は間違っている 馬鹿だ 物覚えが悪い 努力が足りなかった 才能がなかった と認めるのはすごく簡単だふつふつと湧きあがる怒りに似た感情 ああ確かに俺は間違っているのかもしれない 馬鹿なのかもしれな…

詩『かもしれない症候群はビルの屋上に立って何もしないタイプ』

どれだけ自分を作り上げたつもりでいても 確固たる信念を持っていても 次々と現れて俺に襲いかかる不安 もう駄目なのかもしれない 最初から才能なんてなかったのかもしれない 文無しになってホームレスになるかもしれない かもしれない 可能性に過ぎないのに…

詩『堕落、食い物、宝くじについて』

部屋には食べ物が何もなかった どうして何もないんだ? 俺は食べ物が尽きることのない部屋を思い浮かべる 常にその先一週間分の食料を備蓄した部屋 腹が減れば 手を伸ばせば食い物が手に入る部屋 野心をなくし ぶくぶく太り 髭はぼうぼう 風呂にも入らなくな…

短編小説『あるヒトコブラクダの話』

チャールズは、砂漠に点在する町と町との間を、商人に連れられて、大きな荷物を運ぶヒトコブラクダだった。ビルの建つ大きな町も、風が吹けば飛んでしまいそうな小さな町も、チャールズは知っていた。 商人は仕事を片付けると、すぐに次の町へ旅立った。宿に…

詩『人類が数字を発明したが最期』

毎日何もせず できるだけ何もせず 死へのカウントダウンを一つずつ 周りがざわつき始める おいおい 大丈夫か? 何かあったのか? 静かにしろ 俺は数えてるんだ 周りは非難がましくなる 何やってんだよ? 何がしたいんだ? とにかく何かしろよ 働けよ 外に出…

詩『ブービー賞』

ガキの頃から思っていた やってやろうと 今に見ていろと 仮面を被って辺りを伺いながら 俺は普通を装った 油断させていたのだ 誰にでもできる方法で褒められようとは思わなかった 俺にしかできないやりかたでやっつけてやろうと思っていた その「俺にしかで…

詩『MONSTER』

求めているものは何だ? 富か? 名声か? 八頭身でハンサムな肉体か? 宝くじを当てて一生遊びほうける いいじゃないかいいじゃないか 何か 何かしらで名前が売れて有名人になる いいじゃないかいいじゃないか 生まれ持った もしくは整形して手に入れた美貌 …

詩『ヒーロー気取りで世界を救うフリ』

きっかけを掴もうとする 何か衝撃的なこと 誰もが「それきっかけだ」と感じるようなこと あとあと「あれがきっかけだった」と語れるようなこと きっかけって何だ? 言葉にできなくちゃいけないのか ハッと その瞬間に覚醒するようなことでなくちゃいけないの…

詩『すべての問題が解決するときに俺はもういない』

合ってるのか? 間違ってるのか? それを知るのは全てが終わった後で やってるときは 合ってるとか間違ってるとかないもんだ でも自分が問題に直面しているときってのは―― いやちょっと待てよ 「問題」 って言葉にするのはいつも俺たち 俺やお前やあいつ 三…

詩『制限時間が人生である限り結果のことは考えなくていい』

とびっきりの良いことがない代わりに とびっきりの悪いことが起きないようにできないものか なんてことのない一日が終わろうとしているときに俺は考える 落ち込んでいるわけじゃない いや、そんな断りが出てしまう時点である意味落ち込んでんのかも でも最近…

詩『途中経過はいいから完璧になったら起こしてくれ』

何かそこらへんの仕事に就いて 慣れ 上手くなり 安定し わずらわしい考え事をしなくなり 仕事という一点のみでの信頼を得 誰かが整備したレールの上を進まされていることさえ忘れていた自分に気づいたとき または忘れていなくともそういう生活もいいかなと思…

詩『正直者である前にあまのじゃくであれ』

仕事を失い 金が尽きたとき なんのことはない たまたま俺が「この仕事」に向いていなかっただけだと言いきかせ でも食わなきゃ死んじまうから せめて少しでも自分に合った仕事をと 探し あれでもないこれでもない 消去法の繰り返しの末にやっと見つけた仕事…

詩『地球の裏側の現実をテレビで知ることで俺たちは不幸になった』

夜の電車のシートに腰をおろし アナウンスののちに電車が発進し 振動を感じ始めると 今日一日を何とか乗り切ったことに気づき 一息ついたはずなのに すでに明日の労働のことを さらに起床の辛さを想像し 寝苦しいベッドのことを想像し 嫌になって 想像するの…

詩『俺たちは靴を履くことで怪我をしやすくなった』

この地球って星で この国 いや たった二人の間でさえ 俺たちは平等か? 形だけの権利と義務が 意志さえをも支配している 何でもかんでも やりたいつもりになってる ほんとはほとんど何もやりたくないはずなのに 理不尽さに屈しなければならないとき 傍観して…

詩『街角を曲がるときにはポケットから手を出しておくこと』

俺はずっと思ってた 俺たちのせいで暴れだした自然が 俺たちを殺すのも 自然と呼べるんじゃないかって 地球が熱くなったって 水面が上昇したって 生き物が絶えたって 地球が爆発したって それも自然と呼べるんじゃないか 人間が今あがいている状態も自然と呼…

詩『ダッキングからの右フック』

何でもかんでも知りたがるくせに ほとんど決着もつけずに生きている 知らん顔して また次のことを知りたがる 知らん顔するなら 最初から知ろうとするなよ この世の全てを知るつもりなのか まさかそうなのか 半径一メートル以内の苦しみや悲しみはちゃんとや…

詩『せめてそのくらい分かって生きていく』

くだらない仕事に従事し 上司からあれやこれや指示され けど最初 そこには優しさらしきものがあった 俺は勘違いした こいつ、いい奴なんじゃないか? けど次第に明らかになってくる くだらない仕事だと思っていたのは俺だけじゃなかった 奴もまた多くの人間…

詩『苦しみがまたがるシーソーの反対側には誰も腰かけないということはない』

なんだかいろんなことがうまくいかないで 苦しいような気がしたら あるいは苦しみを予感して脅えたらな もうその時点で苦しみの領域にしっかり立ってる すごく苦しい 少し苦しい 苦しみはそんなふうに分けられない からっぽの部屋の床に積もる埃のように ど…

詩『世界中の金をかき集めることに人生を賭けた男の話』

静かな夜さえあればいいと思うことがある 腹いっぱいメシが食えればいいと思うことがある 一人の女がそばにいてくれればいいと思うことがある 時間を気にせず眠られればいいと思うことがある 金さえあればいいと思うことがある 俺たちはその場その場で色んな…

詩『背中を押してもらって崖の下』

誰かが言ったその言葉 真に受けるか受けないか 全ては俺に委ねられる ほとんどの人間は 励ましの言葉を求めている 励ましの言葉を与えてくれそうな人に意見を求める それがたとえ諦めの薦めであっても 諦めた方がいいと自分が思っていれば励ましとなる 言葉…

短編小説『そう簡単に新しくは生きられない』

部屋に一つきりの窓からあたたかい風が吹きこみ、クリーム色のカーテンを揺らしている。あたたかい風だった。気温の低い日に吹く冷たい風は、もう吹かなくなっていた。つまり季節は、すっかり春になっていた。 風はときどき、命を繋ぎとめるように急に強さを…

詩『並んだからって必ず順番が回ってくるとは思うなよ』

カゴを持って長い列に並んで 人の列が進んで前の客で手間取って ついに自分の順番が回ってきて パンやら牛乳やら肉やらをもらう代わりに金を渡す度に俺は 何が起きているのか分からなくなる こんなものを手に入れて自分が何をしようとしているのか分からなく…

詩『ショウウインドウに映る俺』

誰とも喋らないのが何日も続くと 生きているということが実感できる 何にもしなくても腹は空く 眠くなるしいらいらもする ああ俺は生きているんだと思う 死の淵から生還したときとは多分ちょっと違う生の実感 まあ死の淵に立ったことなどないが 何にもしなく…

詩『右を向くと左が見えないのにはもううんざりする』

俺たちは色んなことを見ないままに信じてるけど 全部見て回るには命がいくつあっても足りないくらいに この小さな世界でさえ大きすぎる さて俺たちは何を根拠に信じているのか 誰が言ったことなら信じられる? 経験豊富な百戦錬磨? 知識豊富な理論派? 優し…

詩『できれば全てのがらくたを私が発明したかった』

なんのために毎日働いて お金を稼いで食べて家賃を払って トイレットペーパーがなくなったらトイレットペーパーを買って そんなことをしてるんだろうとトイレで考えだすと止まらなくなる 裸の自分 というところから考えてみると 今自分は便座に腰を落ち着け…

詩『机上の餡パン』

言葉にした途端 もう違ってしまっている 愛のうたも怒りのうたも 夢のうたも哀しみのうたも 言葉にした途端 というか目や耳で感じ取って吐きだそうとしたときには 違うものになってしまっている どんなに言葉を重ねても 華麗な比喩を使っても 目の前のそれを…

詩『小説』

小説を読んで 夢中になる ことはあるけれど 結末が気になって というのは嘘だと思う だって結末教えたら怒るだろ 気になるのはいつも一行先 せいぜい一ページ先 俺たちが夢中になってるのは「今」だ 読むという行為の中に小説はあるし時間は進んでいく

詩『もう着くと言っていつも結果、待たせる』

なくてはならないのは希望だ 耐えてばっかりに見える奴だって いつか俺は と思ってるから耐えている というかそいつは多分耐えているとは思ってない 道の途中で苦痛とすれ違ったくらいにしか思っていない 何かを成し遂げるために 血の滲むような努力をして …

短編小説『桜に鳴る』

アパートの前は人でごった返していた。 丘の上までわざわざ朝からやってきて、路上駐車しまくりの道の真ん中で写真を撮りまくりので、短い渋滞が起こっている。バスがクラクションを鳴らしてる。 一年に一度、桜の咲く季節の休日は毎年こんなふう。普段は静…

詩『Working!』

誰でもできるような仕事にばかり従事していると 俺じゃなくてもいいんだよなあ という自虐心さえもだんだんなくなってくる やってやるか とまともな職歴もないのにオファーを受けたような気持ちで働くようになる 食うために仕方なしに仕事には就くけど 仕事…